酒の味わいは、舌で感じるものだけではない。
香り、温度、グラスを傾ける時間。そして、その場に流れていた空気までもが、一杯の酒の記憶として残っていく。
私にとって夜更けの寝酒には、もう一つの余韻を添えてくれる存在がいる。
三毛柄の猫、月丸である。
私が酒を飲む時間帯は、月丸の家の中の巡回時間と重なることが多い。
彼女は大きな音を立てることもなく、いつの間にか部屋へ現れる。
「来た」と気付く頃には、すでにそこにいる。
しかし、甘えるために必ず膝へ乗るわけでもない。ただ静かに周囲を確認し、しばらく同じ空間を共有すると、また何事もなかったように去っていく。
その姿は、まるで夜空を渡る月のようだ。
長く留まるわけではない。
けれど、確かにそこにいたという気配だけが残る。
酒には、それぞれ似合う季節や時間がある。
沖縄のサトウキビから造られるラム酒なら、秋の夜、窓を開けると鈴虫の声が聞こえる頃が似合うかもしれない。
草のような香りを持つ酒は、賑やかな場所よりも、静かな月夜のほうがその個性を感じられる。
そして、そんな夜に寄り添う存在がいるなら、酒の味わいはさらに深くなる。
グラスの中に残る香り。
部屋に残る猫の気配。
過ぎていく季節の静けさ。
人は酒を飲むことで酔うのではなく、その時間に流れる何かを味わっているのかもしれない。
月丸が静かに現れ、静かに去っていく夜。
その小さな訪問もまた、私にとっては一杯の酒に残る大切な余韻なのである。



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