道後の鉢合わせ──神輿より怖い、人間の波

その他の雑記

さとのか4Kで「祭りの秋」を流し見している。

今日は「松山地域・秋の地方祭2025 道後鉢合わせダイジェスト」。

道後の秋祭りといえば、神輿同士をぶつけ合う、なかなか荒っぽい祭りである。

画面に映るのは、長いかき棒に大勢の男たちが取り付き、その神輿を中心に人の波がうねる姿。

東予の祭りとは、また迫力の種類が違う。

大きな神輿や太鼓台そのものを見るというより、神輿と、それを取り囲む人間の群れが一つの生き物のように動いている。

そして、そのまま相手の神輿へ突っ込んでいく。

テレビで見ている分には圧巻である。

「すげぇなぁ」と、こちらは酒でも飲みながら眺めていられる。

しかし、実際にその中へ入った人の話を聞くと、どうも話が違ってくる。

以前、よく行っていた酒場でバイトをしていた大学生の兄ちゃんが、この祭りに呼ばれて参加したことがあった。

彼によると、神輿と一緒に人間の波まで相手に向かって進んでいくため、後ろから押されると自分の意思では止まれなくなるらしい。

前には人がいる。

後ろにも人がいる。

しかも後ろから、どんどん押してくる。

そこで、地下足袋の足を使って周囲の人間を蹴るようにして、なんとか自分の身体にブレーキをかける。

ところが、同じようなことを考える人間は他にもいる。

つまり、

「止まるために蹴る」

「止まろうとしている人間に蹴られる」

という、なんとも奇妙な状況になる。

その兄ちゃんが祭りの後に漏らした言葉が、

「あんなむかつく祭り、二度と行かない!」

だった。

テレビのこちら側で見ていると、実に迫力のある祭りである。

しかし、あの人の波の中に実際に入ってみれば、祭りの風情どころではないのかもしれない。

神輿を担いでいるというより、神輿を先頭にした人間の波に自分まで運ばれている。

そんな感じなのだろう。

そして今年。

同居人が働いている店の店長さんが、この鉢合わせに参加するらしい。

その話を聞いた同居人が、ぽつりと、

「そのまま波に呑まれてしまえ……。」

と呟いた。

……怖い。

祭りより怖い。

これは日頃の職場で何かあったのだろうか。

それとも単なる冗談なのか。

本人にしか分からない。

ただ、道後の鉢合わせという祭りを考えると、その言葉が妙にしっくりくるのが困る。

画面の中では、神輿がぶつかっている。

その周囲では、何百人もの人間が波のように動いている。

神輿と神輿がぶつかる。

人と人もぶつかる。

そして、その祭りを眺めているこちら側では、人間同士の小さな感情までぶつかっている。

祭りというものは、神様のために始まったものなのだろうが、長い年月を経ると、そこへ人間の意地や見栄や勢いや、時には職場の鬱憤まで入り込んでくる。

そう考えると、祭りとはずいぶん人間臭いものなのかもしれない。

今年、店長さんが鉢合わせの人の波へ入っていく。

同居人はそれを見て、

「そのまま波に呑まれてしまえ……。」

と呟く。

私はテレビのこちら側から、その光景を想像する。

そして思う。

どうか無事に帰ってきてください。

……まあ、同居人はそう思っていないかもしれないが。


次の記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました