世界初の自動車を見ていたら、田んぼの御隠居が浮かんできた

さとのか4Kを流し見していると、ベンツの「パテント・モトールヴァーゲン」が映し出されていた。

世界初のガソリン自動車とされる、あの有名な三輪車である。

改めて眺めてみると、実に原始的だ。

エンジンはむき出し。

始動するにも、人間が手で機械を回してやらなければならない。

馬車のような座席に腰を下ろし、ギアを操作しながら走らせる。

現在の自動車しか知らない人間からすれば、

「これ、本当に自動車なのか?」

と思ってしまうような姿である。

ところが、しばらく眺めているうちに、妙な既視感が湧いてきた。

「……これ、どこかで見たことがあるぞ。」

そう思った瞬間、頭に浮かんだのが、近所の田んぼ脇の農道を走っている御隠居だった。

田植え機である。

エンジンが完全に覆われているわけでもなく、座席に腰掛け、機械を操作しながら農道をゆっくり走っている。

見た目こそ違うが、機械と人間の距離感が妙に似ている。

そして、あの音だ。

「タンタンタンタン……」

田んぼの向こうから聞こえてくる、何とも素朴なエンジン音。

ベンツ・パテント・モトールヴァーゲンの映像から聞こえてくる機械音を重ねてみると、まるで近所の農道にタイムスリップしてきた御隠居である。

世界初のガソリン自動車と、令和の田んぼを走る田植え機。

その間には百年以上もの時間がある。

それなのに、エンジンを人間が操り、機械の振動を身体で感じながら、ゆっくりと道を進んでいく。

そう考えると、意外なほど近いところにいる。

最新の電気自動車が静かに走り、自動運転だのAIだのという話をしている時代に、少し離れた田んぼでは、

「タンタンタンタン……」

と音を立てながら、御隠居が田植え機を走らせている。

自動車の歴史を振り返っていたはずなのに、最後に出てきたのは近所の農道だった。

文明というものは、案外きれいな一本線ではないのかもしれない。

最先端の隣で、百年前のような機械がまだ元気に働いている。

そして、それを運転しているのは、たぶん今日も同じ御隠居である。

「タンタンタンタン……」

その音まで含めて、何とも微笑ましい光景なのである。


次の記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました