バスの転職先は居酒屋だった

さとのか4Kで『レストア・ガレージ』という番組を流し見していた。

古い車を修復して、もう一度走れるようにする番組である。

この日は、昔のボンネットバスをレストアして、山間部の道を走る限定ツアーを紹介していた。

アメリカのスクールバスのように、運転席より前にボンネットが突き出した形。

丸みを帯びた車体に、いかにも昔のバスらしい雰囲気がある。

こういうものを見ると、懐かしいと思う人も多いのだろう。

私の場合、そこから少し横道にそれる。

ボンネットバスそのものより、その後の型だったと思うが、外見は普通のバスなのに、車内の床が木製になっているバスがなぜか好きだった。

走り出すと、車体全体がガタガタと音を立てる。

今のバスのように静かで滑らかではない。

しかし、そのガタガタする音が妙に愛嬌があった。

子供の頃の私には、それがまるで年配の爺さんが、

「まだまだ俺は走れるぞ」

と、ぶつぶつ言いながら山道を走っているように聞こえた。

古い機械には、そういうところがある。

新しいものは性能が良い。

静かで、快適で、故障もしない。

けれど古いものには、音や振動まで含めて「個性」がある。

そして、そんなバスが走れなくなった後、別の仕事に転職したという話を聞いたことがある。

動かなくなったバスを、そのまま居酒屋の店舗にしてしまったのだ。

店としては、キンキンに冷えた生ビールを出すことが売りだったらしい。

残念ながら店の名前は忘れてしまった。

けれど、なぜかそのバスの姿は覚えている。

考えてみれば、これはなかなか見事な転職である。

昔は山道を走って人を運んでいた。

しかし年を取り、もう走れなくなった。

そこで第二の人生として居酒屋になった。

今度は人を運ぶのではなく、人の愚痴を受け止める。

仕事の話でも、家庭の話でも、世の中への文句でもいい。

客がジョッキを傾けながら、

「いやあ、今日こんなことがあってな……」

と話し始めれば、

「そうか、まあ飲め」

とでも言っていそうである。

昔は山道をガタガタ走っていた爺さんが、今度は酒場で客の話を聞いている。

「愚痴ぐらいなら聞いてやるぞ」

という年配者の貫禄まで身につけている。

幼い頃の私は、そんな居酒屋になったバスを見て、なぜか少し安心した。

もう走れなくなったことを残念に思ったというより、

「ああ、まだここにいるんだ」

という感じだったのだと思う。

古いものが、役目を終えたら全部捨てられてしまうわけではない。

形を変えて、別の仕事を始めることもある。

バスだったものが居酒屋になる。

そして、かつて山道をガタガタ走っていた音が、今度は酒場の客の話を黙って聞く背景になる。

そう考えると、これはなかなか良い転職である。

最後には運転手も必要ない。

ただそこに座って、冷えたビールを出して、客の愚痴を聞いていればいい。

「まあ、いろいろあるわな」

そんな顔をして。

古いバスの第二の人生としては、案外これくらいがちょうどいいのかもしれない。


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