煙草は吸わないのに、喫煙所を覗いてしまう

人の記憶

スーパーや商業施設などへ出掛けると、ガラス張りの喫煙所を見かけることがある。

私は煙草を吸わないので、当然ながら中へ入ることはない。

ところが、なぜかトイレへ向かう途中などに、その中をチラリと見てしまう癖がある。

別に喫煙所に興味があるわけではない。

ただ、ガラス越しに何人かの人間が黙って煙草を吸っている光景が、妙に気になるのである。

見知らぬ者同士が同じ小さな空間に入り、中央の灰皿を挟んで、それぞれが微妙な距離を保っている。

誰も他人に話しかけない。

目も合わせない。

スマートフォンを眺めている人もいれば、ただ煙を吐きながら外を見ている人もいる。

二人、三人と同じ空間にいるのに、そこには妙な静けさがある。

もちろん、喫煙所なのだから煙草を吸うために集まっているだけで、親睦を深める必要などない。

煙草を一本吸い終われば、それぞれ何事もなかったように外へ出ていく。

さっきまで同じ小さな箱の中にいた人間同士なのに、外へ出ればまた赤の他人である。

考えてみれば、不思議な空間だ。

私はその中に入った経験がないので、実際のところ、あの微妙な距離感がどんなものなのかは分からない。

ただ外から見ていると、

「よく知らない者同士で、あんな狭いところにいて間が持つものだな」

などと思ってしまう。

もっとも、向こうからすれば私も単なる通行人だ。

ガラスの外を歩いている人間など、いちいち気にしてはいないだろう。

こちらが勝手にチラリと覗いているだけである。

それでも、トイレへ向かう途中に喫煙所があると、今日もまた見てしまう。

煙草を吸わない私が、わざわざ喫煙所を観察する理由など特にない。

何かを学びたいわけでもない。

喫煙者の心理を知りたいわけでもない。

ただ、そこに何人かの人間がいて、しばらく黙って煙草を吸い、やがて一人ずつ消えていく。

その様子が、なぜか少し面白いのである。

そして私は、その横を通り過ぎてトイレへ向かう。

喫煙所の人たちからすれば、私はただの通行人。

私からすれば、喫煙所の人たちは一瞬だけ目に入る人間模様。

互いに名前も知らず、言葉も交わさない。

それでも同じ建物の中で、ほんの数秒だけ同じ景色を共有している。

まあ、それだけの話である。

煙草を吸わない私が、今日もまた喫煙所をチラリと見てしまう。

特に意味はない。

……こういう意味のないものほど、なぜか気になるのである。


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