主役よりもオジさんが気になる。映画『BRUCE LEE/ザ・ファイター』の脇役たち

映画から考える社会

朝方、ムービープラスで『BRUCE LEE/ザ・ファイター』という映画を流し見していた。

犯罪絡みの少々重たい内容なのだが、どうにも落ち着かない。

主人公とヒロインがいい雰囲気になるたびに、なぜか妄想ダンスが始まるのである。

せっかく二人の距離が縮まり、物語が動き出しそうなところで、突然始まる夫婦漫才のようなダンス。

いや、今は踊らなくてもいいのではないか。

そう思いながら眺めていると、どうやらこの映画、二時間近い上映時間の中に、こうした歌や踊りを相当量詰め込んでいるらしい。

インド映画らしい演出なのだろうが、朝方の頭には少々刺激が強い。

ところが、そんな私の視線を別の方向へ引き寄せる人物が現れた。

潜入捜査専門の警察官である。

この男、潜入捜査には成功するものの、肝心の検挙にはなかなか結び付かないという、なんとも残念な役回りを演じている。

本人は至って真面目に仕事をしているのだが、どうにも結果が伴わない。

しかも、周囲の登場人物が大きな身振りや派手なリアクションで物語を進める中、この警官だけは妙に静かである。

間が長い。

表情も独特で、顔の動きだけでも十分に笑わせてくれる。

どこかミスター・ビーンを思わせるような顔芸もあり、身体の動きにはルパン三世のようなコミカルさも感じられる。

時折、ズボンがずり落ちるような小技まで披露してくれるのだから油断できない。

潜入捜査の腕前よりも、ズボンの管理能力に問題があるのではないかと思ってしまう。

ところが、この映画にはもう一人、妙に気になるオジさんがいる。

その名も「スター」。

主人公の父親が刺され、別の場所ではヒロインが拉致されるという、物語が一気に緊迫する場面で登場する。

その風貌は、錦野旦を少々太めにして、ヒゲを蓄えさせたような印象である。

名前がスターだからなのか、登場するタイミングも実に心得ている。

ヒロインが危機に陥ったところへ現れ、驚異的な強さで彼女を救い出す。

普段から格好よく見せようとしているのか、それとも本人は何も意識していないのか。

少々野暮ったいのに、決めるところではしっかり決める。

まさにダサカッコいいオジさんである。

考えてみれば、この映画の主人公には少々申し訳ない。

父親を刺され、ヒロインまで拉致され、犯罪組織との対決に巻き込まれるという大変な境遇にあるのだが、私の関心はどうにも脇道へ逸れてしまう。

主人公とヒロインの妄想ダンスより、検挙できない潜入警官の顔芸。

そして、絶妙なタイミングで現れるスターの活躍。

映画の本筋を追いかけているつもりが、いつの間にかオジさん俳優の品評会になってしまった。

映画には主役がいる。

物語を動かすのも、観客の感情を引っ張るのも、基本的には主役の役目なのだろう。

しかし、映画の味わいというものは、必ずしも主役だけが作っているわけではない。

画面の片隅にいる人物が、妙な仕草をしたり、絶妙な間を作ったりすることで、作品に思いがけない奥行きが生まれる。

現実の人間社会でも、目立つ人物ばかりが面白いとは限らない。

むしろ、少々不器用で、どこか間の抜けた人物のほうが、後になって記憶に残ることもある。

今回の映画も、私にとってはそんな一本だった。

主人公には申し訳ないが、次にこの映画を思い出すとき、真っ先に浮かんでくるのは、きっとあの潜入専門のダメ警官と、ダサカッコいいスターの二人だろう。

映画の主役を差し置いて、オジさん二人が私の記憶を持っていってしまった。

スターとは、必ずしも主演俳優だけに与えられる称号ではないらしい。


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