人間には、不思議な魅力を持った人物がいる。
別に品行方正というわけでもなく、誰からも好かれるような好青年でもない。むしろ、少々胡散臭く、どこか人を食ったようなところがある。それなのに、なぜか憎めない。気がつけば、こちらから肩入れしたくなっている。
私にとって、そんな人物のひとりが、プロレスラーのマイク・モデストである。
かつてプロレスリング・ノアで活躍していた彼の試合は、私の記憶に残っている。大柄で筋肉質な体つきながら、いかにも鍛え上げた肉体美を売りにするタイプとは違う。試合運びにも独特の味があり、単に力で押し切るだけではない、職人的な巧みさを感じさせる選手だった。
しかし、私が特に気に入っているのは、試合内容だけではない。
試合後に見せる、あの独特のスマイルである。
親指を立て、口元にはニヤリとした笑み。普通なら爽やかな好青年のポーズになりそうなものだが、彼の場合はどうにも一筋縄ではいかない。
「どうだ、参ったか」
そんな声が聞こえてきそうな、少々嫌味な表情なのだ。
ところが、この嫌味がたまらない。
あまりにも清々しいので、いっそのこと遺影にしてもらいたいくらいである。もちろん、本人が元気に活躍しているなら、そんな物騒な話はないのだが、それほどまでに完成された表情だということだ。
さらに言えば、交番の指名手配ポスターに貼り出しても、妙に似合いそうな顔をしている。
「この男を見かけたら、すぐに通報してください」
そんな注意書きの横で、親指を立ててニヤリと笑っているのだから困ったものだ。反省の色など、どこにも見当たらない。
ところが、ここまで怪しさを感じさせる顔でありながら、私にはどうにも憎めない。
むしろ、いざ本人が目の前に現れたら、警察に突き出すよりも、裏口から逃がしてやりたくなる。
「おい、今回は見逃してやるから、さっさと行け」
そう言って送り出したところで、本人は振り返り、あのスマイルを浮かべながら親指を立てるのだろう。
「お前、まったく反省していないだろう」
そう突っ込みながらも、どこか満足している自分がいる。
考えてみれば、これは不思議な感情である。
人間は、立派な人物や優れた人物に尊敬の念を抱く。一方で、少々欠点があっても、妙に愛嬌のある人物には、つい肩入れしたくなることがある。
前者は「この人のようになりたい」と思わせる魅力であり、後者は「この人を放っておけない」と思わせる魅力なのかもしれない。
プロレスラーには、技の巧さや強さだけでなく、こうした個性も求められるのだろう。
どれほど優れた技を持っていても、それだけでは記憶に残り続けるとは限らない。しかし、試合後に見せる独特の表情や、本人にしか出せない仕草があれば、それがいつまでも頭から離れなくなる。
マイク・モデストのスマイルは、私にとってまさにそれだ。
好き嫌いを超えて記憶に残るアントニオ猪木の闘魂姿とは、また違った魅力である。猪木が強烈な存在感で人の記憶に居座る人物だとすれば、モデストは、こちらが勝手に共犯者になりたくなる人物なのだ。
もちろん、現実に指名手配された人間を逃がしてやるわけにはいかない。しかし、あのスマイルを見せられたら、思わず情状酌量を求めたくなる気持ちは分かっていただけるのではないだろうか。
人を惹きつける魅力は、必ずしも立派さや格好よさだけでできているわけではない。
少々胡散臭く、どこか憎たらしく、それでいて妙に愛嬌がある。
そんな人物だからこそ、こちらの心に入り込んでくることもある。
さて、もし交番の指名手配ポスターに、あのモデスト・スマイルが貼り出されていたら。
私はきっと、ポスターを眺めながらこう思うだろう。
「まったく、しょうがない奴だ。裏口はあっちだぞ」
そして、本人が去り際に親指を立てたところで、またひとつ、こちらの負けが決まるのである。



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