愛媛では正月になると、尾頭付きの鯛を飾る風習がありました。
「にらみ鯛」と呼ばれるこの風習は、食べるための魚というよりも、家の中に福を招くための縁起物として扱われてきたものです。
鯛は「めでたい」に通じる魚として知られています。
赤い色は魔除けを意味し、祝い事には欠かせない存在でした。
しかし考えてみると、不思議な話でもあります。
せっかくの鯛をすぐに食べるのではなく、まず飾る。
そこには単なる食材以上の意味が込められていたのでしょう。
昔の人々にとって正月は、新しい一年を迎える大切な節目でした。
豊作や家内安全、商売繁盛など、それぞれの願いを込めながら鯛を飾ったのかもしれません。
現代では冷蔵庫を開ければ食べ物があり、欲しいものは店で買うことができます。
それでも初詣に出掛けたり、縁起物を飾ったりする習慣は残っています。
合理的に考えれば必要のない行為かもしれません。
しかし人は昔から、願いを形にすることで心の拠り所を作ってきました。
にらみ鯛もまた、そのひとつだったのでしょう。
食べ物としての鯛は姿を消しても、人々がそこに込めた願いは語り継がれています。
郷土料理や年中行事を調べていると、食べ物の話よりも先に、人の思いや暮らしの風景が見えてくることがあります。
にらみ鯛が見つめていたのは、海ではなく、その先にある人々の暮らしだったのかもしれません。



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