昔、テレビで『走れ!ケー100』という番組を見ていた。
機関車のような姿をした車が、全国を旅していく。
子供の頃の私は、それを特に不思議とも思わなかった。
「ケー100」という名前の、ちょっと変わった機関車。
それくらいの認識だったと思う。
ところが50年ほど経って、改めて兄さんの姿を見てみると、どうにも気になるところが多い。
まず、車体の上半分がやたらと大きい。
意思を持った機関車という設定だから、顔が必要だったのだろう。
前面には二つの窓があり、これがまるで目のように見える。
煙突も大きい。
前部も大きい。
それに対して足回りは、左右3本ずつの6本のタイヤ。
しかも、車体に比べるとタイヤが妙に小さい。
「兄さん、そのタイヤで山道を走れるんですか?」
「急カーブ、大丈夫ですか?」
「そんな車体で水に浮くんですか?」
私は勝手に心配していた。
そして以前の記事では、さらに調子に乗ってしまった。
「水に出たら沈むんじゃないか」
などと、兄さんを半ば珍車扱いしていたのである。
ところが、調べてみると話が違った。
実際の撮影車両は、カナダ製の水陸両用車をベースにしていたという。
つまり兄さんは、見た目こそ蒸気機関車だが、その中身にはちゃんと水陸両用車としての能力があった。
実際に水上を走っている。
海上も進んでいる。
さらに驚いたことに、番組では神社の石段や街中の階段まで登っていたという。
鳥取砂丘まで走っている。
……兄さん。
私は完全にあなたを見くびっていました。
「その小さいタイヤで大丈夫なのか」と心配していた私の横で、兄さんは50年前から、
海を渡り、砂丘を走り、階段まで登っていた。
なんということでしょう。
能ある鷹は爪を隠すと言いますが、兄さんの場合は少し違う。
能あるケー100は、機関車の顔をして能力を隠す。
そして、その能力をひけらかすこともなく、日本各地を旅していた。
各地で出会った人々と関わり、困っている人を助けたり、励ましたりしながら、旅を続けていく。
最終的には、最果ての北海道まで向かう。
51話。
今考えると、これはなかなか大変な旅である。
しかも兄さん自身が意思を持っている。
何かあれば、
「ポッポー……」
と鳴く。
人間なら文句の一つでも言えそうな場面でも、兄さんに許された表現は基本的に汽笛である。
タイヤを盗まれる。
海に沈められそうになる。
旅先でいろいろな騒動に巻き込まれる。
それでも走る。
私はいつの間にか、兄さんのことを「昭和の珍車」くらいに考えていた。
しかし、よく考えてみれば、珍車どころではない。
水陸両用で、6輪で、階段まで登る。
その特殊な車体を使って、全国を旅する。
そして、その隣にいるのが、カウボーイスタイルの九州男児のお兄さんである。
こちらも相当に濃い。
なぜ機関車のような水陸両用車を作ろうと思ったのか。
なぜ運転する人までカウボーイスタイルなのか。
50年後の私には、まだよく分からない。
ただ、分かったことが一つある。
兄さんは、思っていた以上にデキる奴だった。
見た目だけで、
「このタイヤじゃ無理やろ」
などと言っていた自分が恥ずかしい。
兄さんはちゃんと走っていた。
海も走った。
階段も登った。
砂丘も越えた。
そして51話もの旅を最後まで走り抜いた。
そう考えると、今までのツッコミも少し申し訳なくなってくる。
ケー100兄さん。
疑って申し訳ありませんでした。
小さなタイヤだの、沈みそうだの、よく捕まらなかっただの、好き勝手なことを言ってしまいました。
あなたは、私が思っていたよりずっと偉大な車でした。
いや、車という呼び方だけでは足りない。
あなたは50年前から、
全国を旅する人情劇場であり、
水陸両用の特殊車両であり、
そして何より、偉大なる芸人カーだった。
50年後になって、昔の子供があなたの映像を見返して、
「兄さん、まだ元気だな……」
と思える。
それだけでも十分に大したものだと思う。
そして最後に、あのカウボーイスタイルのお兄さんにも一言。
ケー100兄さんをあそこまで魔改造して、全国を連れ回していただき、ありがとうございました。
50年前の旅、お疲れ様でした。
ケー100兄さん。
カウボーイスタイルの九州男児のお兄さん。
そして私は、今さらながらこう言わせていただきます。
馬鹿にして、誠に申し訳ございませんでした。
ただし……。
あの大きな顔に、あの煙突。
そして車体に対して妙に小さく見える6本のタイヤ。
そこだけは、50年経った今でも、
やっぱり笑ってしまいます。
兄さん、そこだけは勘弁してください。



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