あの頃の豚太郎には、一人の店長がいた。
がっしりとした体格に、短く刈り込まれた髪。
店の中を忙しく動き回りながらも、不思議と慌ただしさを感じさせない人だった。
よく通る声も印象に残っている。
子どもだった私は、その人の名前を知らなかった。
ただ、「あの店には、あのおじさんがいる」ということだけは、なぜか安心して覚えていた。
今になって思えば、店の雰囲気は料理だけで作られるものではない。
厨房に立つ人。
注文を取る人。
笑顔で迎えてくれる人。
そうした一人ひとりが、その店の空気を作っている。
私は後になって、その店長を勝手に「熊さん」と呼ぶようになった。
強そうな体格なのに、どこか親しみやすい。
そんな姿が、町中華という場所によく似合っていたからである。
当時は、この出会いが何十年も私の記憶に残り、しかも別の店で再び会うことになるとは思ってもいなかった。
それは、もう少し先の話である。



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