初夏の兆しが見え始める頃になると、公園や神社の様子が少し変わってくる。
ツバメやカラスたちが繁殖の季節を迎え、木々の間を忙しく飛び回るようになるからだ。
やたらと賑やかな鳴き声が聞こえ、何度も巣と餌場を往復している姿を見ると、「今年もそんな季節か」と思う。
不思議なことに、私の場合、その光景から連想するのは鳥ではなく酢を使った料理だったりする。
暑さが増してくると食欲は少しずつ落ちていく。
水ばかり飲むようになり、こってりしたものよりも喉越しの良いものを求めるようになる。
そんな時期になると、自然と酢の物が食卓に並び始める。
タコの酢漬けやアジ南蛮は、スーパーの惣菜売り場でもよく見かける夏の定番だ。
酸味のおかげで食べやすく、どこか身体が求めているような気もする。
夏は大して動いていなくても体力を消耗する。
昔の人が酢の物を好んだのも、理屈だけではなく身体の感覚として知っていたからなのかもしれない。
そういえば、この地域ではアジではなく「雑魚」と呼ばれる小魚を南蛮漬けにすることがあった。
アジよりも小さい魚を頭ごと揚げ、酢に漬け込む。
しばらく寝かせておくと、小骨も背骨も柔らかくなり、そのまま丸ごと食べられる。
特別な料理ではない。
けれど、季節になると自然と思い出す味だった。
ツバメの鳴き声を聞きながら、ふと雑魚の南蛮漬けを思い出す。
考えてみれば、人は季節を暦だけで感じているわけではない。
鳥の声や風の匂い、そして食卓に並ぶ料理の変化によって季節を知っている。
ツバメが飛び始めると、雑魚の南蛮漬けを思い出す。
私にとっては、それが夏の入口なのかもしれない。


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