魅+夜話(みたすやわ)第7話 家出と豚太郎

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高校生の頃、一時期、家へ帰りたくない日が続いた。

理由は、幼なじみだった。

ある日帰宅すると、玄関先に見慣れた顔がいた。

「原付の免許を取りに来たんだけど、泊まるところがなくてさ。」

母に相談したところ、「泊まればいい」と言われたらしい。

私には何の相談もなかった。

気がつけば、家に知らない生活が始まっていた。


彼とは昔から気が合わなかった。

努力が嫌いというわけではない。

ただ、困ると誰かが助けてくれると思っているようなところがあった。

原付の免許も、なかなか合格しない。

それでも深刻そうな顔はしない。

何日も我が家から試験場へ通っていた。

若かった私は、その図太さを受け入れられなかった。


それからというもの、家へ帰る足が遠のいた。

授業が終わると、そのまま町を歩く。

本屋へ寄ったり、公園で時間をつぶしたり。

特に目的があるわけではない。

ただ、帰りたくなかったのである。

思春期というのは、ほんの小さな出来事でも、自分の居場所がなくなったように感じる年頃なのだ。


ある日、家族が言った。

「今日は豚太郎へ行こう。」

幼なじみも一緒だった。

私は断った。

ラーメンが嫌いになったわけではない。

ただ、その場にいたくなかった。

結局その日も、一人で町を歩いていた。


だから私にとって豚太郎には、少し複雑な記憶がある。

美味しかった思い出だけではない。

帰りたくなかった夜。

一人で歩いた町。

そんな風景まで一緒に思い出してしまう。

食べ物の記憶というのは、不思議なものである。

味だけを覚えているのではない。

その時、自分がどんな気持ちで食べていたのかまで、一緒に残っている。


今では、その幼なじみとも笑って昔話ができる。

あの頃は大事件だった出来事も、時間が経てば少しずつ角が取れていく。

それでも、豚太郎の赤いネオンを見るたびに、あの夜、一人で歩いた町の景色を思い出す。

ラーメンの味より先に、青春の少し塩辛い記憶が浮かんでくるのである。

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