夜更けに酒を飲むことがある。
最近は、ビーフィーターをビールで割った「ドッグスノーズ」を飲むこともある。名前からすると少々物騒だが、ジンとビールを合わせたカクテルである。
ビールの苦味にジンの香りが加わるため、かなり辛口だ。
甘いカクテルとは違って、飲み始めると口の中に苦味とアルコールの存在感が残る。だから、つまみも少しクセのあるものの方が合う。
チーズなどは、その代表だろう。
濃厚なチーズの味を、ドッグスノーズの辛口が受け止める。酒がつまみに合わせるというより、強い酒に強いつまみをぶつけるような組み合わせである。
この酒を飲むと思い出すことがある。
まだ若かった頃、学生時代の友人から突然連絡があった。
年末だった。
「飲みに行こう」という話になり、酒場で新年を迎えることになった。
そのときに飲んだのもドッグスノーズだった。
つまみはチーズだったと思う。
辛口の酒と濃厚なチーズの組み合わせが妙に印象に残っている。酒そのものの味を細かく覚えているわけではない。
しかし、友人と酒場にいて、年が変わる時間を迎えたことは覚えている。
不思議なものである。
何を飲んだのかという記憶よりも、誰と飲んでいたのか、どんな時間だったのかという方が長く残る。
そして現在。
私は夜更けになると、昔と同じようにビーフィーターでドッグスノーズを作ることがある。
ただし、昔とは酒場の様子がずいぶん違う。
現在の酒場は、自宅である。
外では鈴虫が鳴き始め、夏の終わりを知らせている。
ラジオからは深夜の番組が静かに流れている。
『JET STREAM』から『TOKYO SPEAKEASY』へと時間が進み、國村隼さんの落ち着いた声を聞きながら酒を飲む。
そして、私の酒場には九匹の接客係がいる。
猫である。
ただし、接客態度はそれぞれ違う。
こちらに寄ってくる者もいれば、何の用事があるのか分からないまま目の前を横切っていく者もいる。
撫でてほしそうに近寄ってきたかと思えば、こちらが手を伸ばすと逃げる。
こちらが酒を飲んで静かにしていると、突然膝の上に乗ってくる者もいる。
店主としては、接客マニュアルを作りたいところだが、猫相手ではどうにもならない。
猫カフェならぬ、キャット・Barである。
ところが、この酒場で飲んでいる酒の名前は「ドッグスノーズ」。
犬の鼻である。
猫が九匹いる酒場で、犬の名前が付いた酒を飲んでいる。
考えてみれば、なかなか妙な光景だ。
しかも犬と猫が同居する時間帯である。
昔は友人と酒場で新年を迎えた。
今は、猫たちに囲まれて一人で酒を飲んでいる。
酒そのものは、昔と同じようなものを選んでいる。
しかし、酒を飲む場所も、周りにいる者たちも、ずいぶん変わった。
それでも、夜更けに酒を飲みながら、誰かの話を聞いたり、昔のことを思い出したりする時間は変わらない。
酒には、味や香りだけではなく、飲んだときの時間まで一緒に残っているのかもしれない。
ドッグスノーズを飲むたびに、昔の酒場と、そこで一緒に年を越した友人のことを思い出す。
そして今は、グラスの向こうを九匹の猫が勝手に横切っていく。
昔の酒場には友人がいた。
今の酒場には猫がいる。
どちらも、こちらの都合など聞いてくれないところだけは同じである。
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