「九尾は、いまも揺れている」

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椿まつりの社には、九尾の狐の尾が伝わるという。


千年を生き、世を惑わし、王朝を傾けた霊獣。
尾が九つに分かれたとき、その力は神に近づくと伝承は語る。


冬の名残がまだ残る境内に、柔らかな光が差し込み、
人々は福を求めて熊手を掲げる。


だが、私はこたつにいる。


膝の上で一つの尾が揺れる。


足元でもう一つ。


窓辺では三つ目が光を受けている。


台所の奥では四つ目が影に溶け、
残りは思い思いの場所で季節を測っている。


九つの尾が、呼吸している。
伝説の尾は箱の中に眠り、
こちらの尾は日々の埃をまといながら生きている。


九尾とは、神話の中だけにあるものではない。


感情が尾に出る生き物が九つ集えば、
それはもう小さな霊域だ。


怒りは膨らみ、
安堵はゆるく揺れ、
信頼は静かに絡む。


神社の奥に封じられた尾よりも、
今、私のこたつの周囲で揺れている尾のほうが、
よほど霊的である。


季節は外で始まるのではない。
尾の揺れの中で始まる。

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