魅+夜話 第12話 🍜 豚の面影はある。でも、何かが違う。

その他の雑記

現場のすぐ近くに、「珍味来」というラーメン店がありました。

店主は、あの豚太郎で修業したという話です。

「それなら間違いない。」

そう思って暖簾をくぐりました。

ラーメンを一口すすると、確かに豚太郎の面影があります。

スープの方向性も似ています。

「なるほど。修業していたという話は本当なんだな。」

そう思いました。

ところが、食べ進めるうちに、どうしても心が満たされません。

決して美味しくないわけではありません。

むしろ丁寧に作られた一杯です。

それでも私の舌は、どこか物足りなさを感じていました。

その瞬間、頭の中に浮かんだのが、映画『パルプ・フィクション』のワンシーンでした。

麻薬の品質にうるさい客が、自分をこう表現します。

「俺はアムス上がりだぜ?」

思わず私は、心の中で店主につぶやきました。

「店主さん、悪いけど……俺は”ミタス上がり”なんですよ。」

一度、あのミタスの中毒性に舌を教育されてしまうと、ほんの少しの違いまで敏感になってしまいます。

これは店の問題ではありません。

完全に、私の舌の問題です。

ジャンキーというのは、実に厄介な生き物なのです。

✍️ あとがき

後になって思えば、私はラーメンを食べ比べていたのではありません。

比べていたのは、自分の記憶でした。

熊さんとの思い出。

高校時代の苦い出来事。

家族と囲んだ餃子。

そうした時間が積み重なった豚太郎は、もはや一杯のラーメンではなく、人生そのものになっていました。

だから、少し似ているだけでは満足できない。

「俺はミタス上がりだぜ?」

あの日の心の声は、映画のセリフを借りた冗談でありながら、案外、本音だったのかもしれません。

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