夜の巡回者 — 見えない秩序を歩く三毛の月

食と記憶

夜更けになると、我が家の空気はゆっくりと形を変える。
つい先ほどまで、ただの三毛猫だった月が、静かに起き上がる。
そして、何事もなかったかのように巡回を始める。
決まったルートを辿り、足音を立てずに部屋を横切り、
見えない境界線をなぞるように、ゆっくりと歩いていく。
誰に頼まれたわけでもない。だが、その動きには明確な意図がある。
匂いを確かめ、気配を探り、変化の有無を確認する。
それはただの散歩ではなく、この空間の“現在地”を更新する行為のようにも見える。
昼間の月は、ただの一匹の猫に過ぎない。
だが夜になると、その存在は少しだけ意味を帯びる。
他の猫たちは、それを言葉にすることはない。
けれど、どこかで理解している。
「ああ、今はあいつの時間だな」と。
誰も命じていない役割が、いつの間にか成立している。
関係性の積み重ねの中で、ひとつの軸が自然に生まれている。
考えてみれば、こうした構図は人間の社会ともどこか似ている。
外から見れば曖昧で、不均衡で、統一されていない。
それでも内側では、確かな秩序が機能している。
我が家の猫社会も同じだ。
人間という外側の管理がありながら、内側では猫たちのルールが動いている。
完全に支配されているわけでもなく、完全に自由でもない。
その曖昧な境界の上で、月は静かに歩いている。
やがて巡回を終えると、何事もなかったかのように元の場所へ戻る。
再び、ただの三毛猫に戻る。
だが一度その姿を見てしまうと、
もう“ただの猫”としては見られなくなる。
見えない秩序は、確かにそこに存在しているのだから。

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