※評議直前の、静かなクライマックス
集合・入廷
我々補充裁判員の集合は午後12:50。裁判官3名とともに午後1:10に法廷へ入りました。いつもの所作──礼に始まり礼に終わる──を済ませると、いよいよ後半パートの始まりです。

論告(検察官)――簡潔に、しかし重い言葉
検察官の論告は、机上に既に配られている「事件の概要・経緯」の資料と整合させながら、要点を淡々と述べる形で進みました。
既に我々は資料で流れを追っているため、長々とした説明はなく、**「被告の行為は生命を危険に晒したものであり、殺意を推認させる」**という論旨が簡潔に示されました。言葉数は少なくとも重みは十分──検察官の語る「可能性」は、法廷の空気を背筋が伸びるようにしました。
弁論(弁護人)――補助線としての主張
続いて弁護人の弁論。こちらも机上の資料に沿って、事実関係の解釈や心情面の事情を中心にまとめ上げる形でした。
弁護の主張は要するに、**「被告には故意の殺意を断定できない事情がある」**という立て付け。情状や動機の解釈を丁寧に示し、極刑ではない選択肢へと論を寄せようとする典型的な最終弁論です。聴衆の感情を煽ることはなく、職務的で落ち着いた語り口でした。

被告人の最終陳述――短く、決まり文句のように
最後に被告人の最終陳述。言葉は短く、決まり文句めいた謝罪と反省、そして決意表明が述べられました。
「もう二度と刃物を持って喧嘩はしません」──その一言は、法廷の形式としては必須の体裁を満たしますが、私の胸には別の声がこだましました。
(内心メモ)――君がこれから行く先は、刃物がないと身を守れないような世界かもしれないよ。
その現実の重みを、まだ君は理解していない。

全体の印象と控え室での心構え
- 形式的だが重要な区切り:論告・弁論ともに、資料と整合した簡潔な形で終わったため、評議に向けて判断材料は整理しやすい。
- 被告人の言葉の軽さ:最終陳述の薄さが逆に印象に残る。言葉の重みと行為の重みが乖離している。
- 評議への準備:我々は感情で傾くのではなく、提示された証拠・証言・法医学的事実を天秤に掛ける役割。補充裁判員としてもその姿勢を忘れずに。
控え室に戻る途中、窓の外で祭りの太鼓が遠くで鳴っているのを聞いた。法廷の中の重みと、外の喧騒が同居する午後だった。

短い評議メモ(補充裁判員として控え室で使える一言メモ)
- 被告人は供述変遷が多く、証言の一貫性に疑問点あり。
- 法医学的所見は「致命的になりうる傷」との評価(刺入経路・出血量)。
- 行為後の救助行動の欠如は情状酌量を難しくする要素。
(※補充裁判員は評決権がないが、こうした観点を共有することは評議の議論を助ける)
判決はもうすぐ――評議に向けて、冷静に、しかし確かな市民感覚を持って臨みましょう。
控え室での一服のお~いお茶が、最後の冷却装置になってくれるはずです。



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