
第11回 判決後の沈黙
評議室を後にしたあの日から、奇妙な静けさが心の奥に沈んでいる。
誰に話すこともできないやり取り、沈黙の中でしか共有できなかった空気。
それは今でも、どこか胸の底に石のように残っている。
その夜は、たしか中秋の名月だった。
祭りの太鼓の音が遠くで響き、街全体が一瞬だけ浮かび上がるように明るかった。
私は夜勤へ向かう途中、車の窓からその月を見上げた。
まるで、判決を告げたあの法廷を照らすかのように、月は静かで、冷たく、そしてどこか優しかった。
あの評議で交わした沈黙は、言葉よりも重く、
そして、月の光のように、誰の心にも淡く残るものなのだろう。
判決が下り、裁判は終わっても、私の中の時間はしばらく止まったままだった。
けれど今では、その静けさも悪くないと思える。
――それが、市民として「法」と向き合った者に与えられた、静かな余韻なのかもしれない。

― そして、朝が来た ―
翌朝、出勤のために家を出ると、庭の柿の実が色づき始めていた。
季節は確実に前へ進んでいる。
昨夜の月が嘘のように、青い空が澄み渡っていた。
少しだけ息を吸い込む。
あの沈黙も、この空気のように、ゆっくりと溶けていく気がした。



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