匂いに選ばれる夜

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――都市の境界を読む
「今夜は仕事疲れがあると思うから、もしかしたら豚太郎かも……」
同居人が下の階から上がって来て、そんなことを言いました。
それを聞いた私は、「うーん……」と、しばし考え込みます。
寒気はそれており、日中はそれなりに温かい。
しかし、夜はどうなのか。
それによって、選択権が微妙に揺れ動きます。
味噌ラーメンか、カレーラーメンか。
どちらの匂いが、今夜の私を虜にするのか。
実に悩ましいところです。
匂いが提示する選択肢
猫で言えば、味噌ラーメンは月丸。
カレーラーメンは天。
そんな対応関係が、私の中にはあります。
どちらが優れているという話ではありません。
性格の違いのようなもので、
その日の体調や気分によって、受け入れられる側が変わるだけです。
最近、行きつけの店がカレーラーメンを提示するようになりました。
興味半分で手を出してみたのが、そもそもの始まりでした。
境界を越えてくる味
正直なところ、最初は侮っていました。
子供向けの、少しチャラいものだろう、と。
口コミには「カレー蕎麦のようなもの」とだけ書かれていましたが、
実際に口にした印象は、それとは少し違いました。
カレーの風味は確かにある。
しかし、前に出過ぎることはない。
主張し過ぎないのに、妙に後を引く。
それは、知らないうちに踏み込んでしまった
魅惑の領域のような感覚でした。
都市的背徳感
この感覚を、どう表現すればよいのか。
考えているうちに、少し不穏な比喩が浮かびました。
本妻を忘れて、
若い女性に目を向けてしまう
優柔不断な中年サラリーマンのおっさん。
自分でも苦笑してしまいますが、
都市生活における選択というものは、
往々にしてこうした「軽い裏切り」を含んでいる気がします。
決定的な断絶ではない。
しかし、確実に一線を越えている。
サイドメニューという逃げ道
こういう、やや大人びた女性には、
おでんをサイドメニューで取り寄せたくなります。
牛すじ肉に、カレー出汁。
想像しただけで、妙に納得がいきます。
選択を一つに決めきれないとき、
人は無意識に「付け足し」という逃げ道を探すものです。
それもまた、都市の中で身につけた
処世術のひとつなのかもしれません。
境界線の上で
今夜は、ギリギリまで悩みの種になりそうです。
味噌か、カレーか。
月丸か、天か。
答えは、最後まで出ないかもしれません。
ただ、匂いが立ち上がった瞬間に、
身体のほうが勝手に境界を越えてしまう。
都市の中での選択とは、
そういう曖昧さを抱えたまま行われるものなのでしょう。

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