
地方裁判所4階にある会議室の窓からは、萬翠荘と城下町が見渡せます。
観光気分になりそうなロケーションですが、ここは法廷への“舞台裏”の入口。
この日、私は補充裁判員として社会の“ひび割れ”に足を踏み入れることになりました。
◆ 教材DVDで「裁判員の心得」を叩き込まれる
最初に行われたのは、いきなりの座学。
大きなモニターに映し出されたのは、裁判員制度の流れをまとめた教材風DVDです。
まるで新入社員研修のように、淡々とナレーションが進行。
「あなたも今日から法の一端を担う仲間です」的なセリフが流れると、会議室内に妙な緊張と静けさが漂います。

◆ 書類記入タイムと小休憩
DVD上映が終わると、いくつかの書類に記入。
これは、本人確認や辞退の有無を確認するための書類で、名前や連絡先などを丁寧に記入していきます。
一通りの記入作業が終わると、5〜10分ほどの休憩タイム。
短い時間ですが、廊下で職員さんと雑談する人や、黙って窓の外を眺める人など、それぞれの“心の整理タイム”になっていました。

◆ 裁判官登場と「番号で呼ばれる世界」
休憩が終わると、いよいよ本番の始まりです。
会場に3名の裁判官が登場し、裁判員選考についての詳しい説明が行われます。
このとき、辞退希望者がいれば別室で個別に理由を聞く流れになります。
特筆すべきは、ここから個人名ではなく「番号」で呼ばれる世界に突入すること。
「裁判員候補者◯番の方」「補充裁判員◯番の方」といった呼び方で進行するため、身バレの心配はありません。
このあたりはプライバシー保護がしっかりしていて、妙に“企業研修+秘密結社”感がありました。

◆ 20人中8人が“当選”する抽選会
この日は約20人が集まり、その中から裁判員6名、補充裁判員2名が選ばれます。
ほぼ半数が当たるため、くじ引きで言えば「ジャンボ宝くじの高額当選」くらいの確率。
番号が呼ばれていくたびに、会場の空気がじわりと張り詰めていきます。
そして、私の番号も呼ばれました。
補充裁判員の1人として、いよいよ“舞台袖”へ足を踏み入れることになったのです。

◆ スパイ映画の裏口ルートへ
選任後は職員さんの案内で、裏通路や専用エレベーターを通りながら法廷の裏へ。
一般人が普段通らないルートに少しドキドキ。
まるで「この先は立ち入り禁止」の先に案内されるような、スパイ映画の一場面のようです。
◆ 自由人のひとこと
「DVDで“裁判員心得”を叩き込まれ、番号で呼ばれ、裏ルートへ案内される——
まるで新入社員研修と秘密結社の入団式を足して2で割ったような1日でした。」
第1回は、制度の説明と選任で一日が終わります。
まだ事件の詳細は一切わからず、ただ静かな萬翠荘を横目に、非日常の入口に立たされた感覚だけが残りました。



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