「夏の塀の中は灼熱地獄? ― 刑務所の中の熱中症対策」

塀の向こう側日誌

■ はじめに

真夏のニュースで「猛暑日」「熱中症警戒アラート」という言葉を聞かない日はありません。
しかし、外の世界ではエアコンを自由に使える一方で、塀の中では冷房設備に制限があるという現実があります。
今回は、「刑務所の夏」と「熱中症対策」という、あまり知られていない世界を覗いてみましょう。


■ 灼熱の独居房 ― 換気よりも「風の通り道」

刑務所の建物は古い施設が多く、鉄筋コンクリートの構造が熱を溜め込みやすいのが特徴です。
独居房(ひとり部屋)は窓が小さく、外気がほとんど入らないため、日中はまるでサウナのようになります。
外ではエアコンが当たり前でも、塀の中では「風をどう通すか」が生死を分けるほど重要です。

職員たちは扇風機を巡回時に共有したり、廊下の窓を開けて風の流れを確保するなど、
設備に頼らない“知恵の防暑”で対応しています。
それでも、真夏の午後は室内温度が40度を超えることも珍しくありません。


■ 水分補給のルール ― 「勝手に飲めない」のが現実

外の世界なら、喉が渇けばペットボトルの水を買うことができます。
しかし塀の中では、水分摂取にも一定のルールがあります。
支給される水筒は限られ、持ち込みも時間管理もすべて規律のもとに行われるのです。

このため、熱中症が疑われる場合は看守が即座に対応し、
医務課や看護師が巡回する体制が取られています。
一見厳しい環境に思えますが、近年は「命に関わる暑さ」に対する認識が高まり、
冷却シートや経口補水液を臨時で支給する例も増えています。


■ 作業場の工夫 ― 「暑さとの戦い」は職員も同じ

刑務所の作業場では、扇風機や送風機の設置が進んでいます。
ただし、刃物や機械を扱うため安全性が最優先。
「風を感じながらも作業に集中できる配置」が求められます。

職員もまた、外回りや見回りの際に汗を流し、
“暑さとの戦い”を共にしているのです。
中には、作業休憩時間を短縮して水分補給を優先させるなど、
現場判断で臨機応変に対応する姿もあります。


■ 夜の暑さと眠れぬ房

夜になってもコンクリートの熱はなかなか冷めず、
就寝時には“寝苦しい”を通り越して息苦しさを感じるほど
冷房設備のない房では、汗だくになりながらタオルで顔を覆って寝る人も多いといいます。

職員もまた、夜間に熱中症で倒れる受刑者がいないかを確認しながら巡回。
時にはドア越しに「大丈夫か」と声をかけることもあります。
厳格な環境の中にも、人の温かさが垣間見える瞬間です。


■ まとめ ― 塀の中にも「命を守る知恵」がある

刑務所の熱中症対策は、冷房に頼れない分、人の目と経験が頼りです。
風を通す工夫、水分摂取のタイミング、作業環境の調整――
限られた環境の中でも「命を守る」努力が確かに存在しています。

次回は、**「塀の中の冬 ― 寒さとの闘い」**をテーマに、
今度は真逆の季節でどんな知恵と苦労があるのかを見ていきます。


🪶筆者メモ

外の世界ではクーラーの風が当たり前。
けれど、塀の中では“風ひとつ”がどれほど貴重かを痛感させられます。
暑さを我慢することが「更生の一部」と考えるのか、
それとも「命を守る最低限の環境整備」と考えるのか――
この議論は、きっと社会にも投げかけられている問いなのかもしれません。


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